親の介護、自分の老後生活、人生の場面で介護する・される機会は、多くの方にあると想定されます。
その時に、使える制度を理解しているとより快適に生活できる可能性が高まります。
本記事では、介護保険について分かりやすく説明していきます。
この記事の内容をまとめると
- 介護保険とは?
- 介護保険料はいくら払うのか。
- 介護が必要になったら
- 介護保険の賢い活用方法
介護保険とは?
高齢者と被保険者が対象となる介護保険制度の仕組み
介護保険とは、介護や支援が必要な方に対して、介護や介護予防でかかる費用の一部を給付する制度のことです。
介護保険制度は、介護が必要になった人とその家族を社会全体で支えていく仕組みです。
社会保障の1つで、財源が保険料であり、利用したサービス費用の一定率を負担することが基本となる社会保険方式がとられています。
例えば、一般的には医療保険は3割負担と負担率が決まっています。このシステムを社会保険方式と言います。
介護保険も同様に、基本的には所得に関係なく同じ割合の負担額を支払います。
では、どのような状態になったら私たちは介護保険制度を利用できるのでしょうか。
介護保険を受けられる対象者の条件を見ていきましょう。
第一に、介護保険の保険者は、市町村です。次に、サービスを受けることのできる資格を持つ被保険者には、第1号被保険者と第2号被保険者の2種類があります。
両者には、受給条件に大きな違いがあります。
まずは第1号被保険者から見ていきましょう。
第1号被保険者は、市区町村の区域内に住所を有する65歳以上の方が対象です。
その受給条件は、原因を問わず要介護・要支援状態になった方が受けることができます。それに対し第2号被保険者は、保険適用の条件が違います。
第2号被保険者は、市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者が対象です。さらに、末期がんや脳血管疾患などの指定された16疾病によって要介護・要支援状態になっていることが条件です。
例えば、第2号被保険者が交通事故によって介護が必要になった場合には、介護保険法は適用されません。その場合は、障害者総合支援法による制度を利用します。
介護保険の被保険者は、それぞれの条件を満たして要介護・要支援認定を受けることができます。
2024年改正のポイントと制度の基準
介護保険制度は、2000年に創設されて以来、世の中の変化に合った内容となるよう3年ごとに見直しされています。
要介護認定の見直しや自己負担割合の変更など、その時々の社会情勢や環境の変化に合わせて制度も少しずつ変化しています。介護保険を利用する方やその家族にとって、改正内容は生活や金銭面に関係してきます。
ここでは、2024年の改正内容について取り上げます。
2024年の法改正の基本方針ですが、「2025年問題」をご存じですか。
団塊の世代の方々が75歳以上になり、国民の4人に1人が75歳以上の超高齢化社会に突入します。
それにより、医療や介護などの社会保障費が増大し、ますます現役世代の負担が増えることが懸念される問題です。
2024年の法改正では、今後の制度の継続性が考慮されています。
ではどのように改正されたのか、ポイントを4つご紹介します。
- 介護保険料の標準段階の変更
- 介護情報を管理する基盤の整備
- 居宅介護支援事業所による介護予防支援の開始
- 介護保険施設の居住費の引き上げ
1つ目の介護保険料の標準段階の変更とは、65歳以上が支払う介護保険料が、9段階から13段階に変更されました。
65歳以上が支払う介護保険料は、年間所得や年金収入に応じて、段階的に分かれています。
これによって、所得の多い人の負担額が増え、一方で所得の低い人の負担額が軽減されます。支払い能力に応じた金額を払うというシステムがより強化されました。
2つ目の介護情報を管理する基盤の整備は、自治体が利用者の介護情報を一元化したシステムを整備することです。
この新しいシステムにより、利用者の同意の下で、医療機関や介護事業所でも対象者の介護情報をみて、活用することが可能です。利用者が、必要なサービスをタイムラグなく受けられるようになります。
3つ目の居宅介護支援事業所による介護予防支援の開始というのは、どういうことでしょうか、まず居宅介護支援事業所とは、自宅で介護を始める際に相談するケアマネジャーがいるところ、ケアプランの作成や介護サービスを依頼する事業所、例えばデイサービスなどと連携・調整をしてくれる場所です。
この居宅介護支援事業所が、市町村から直接指定を受けると介護予防支援を提供できるようになりました。
これによって、利用者は要支援から要介護に介護度は変わっても、担当のケアマネジャーや居宅介護支援事業所は変わらないため、安心してサービスを利用できます。
4つ目の居住費の引き上げとは、介護保険施設やショートステイを利用する人の居住費が1日あたり60円引き上げられました。介護保険施設とは、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院のことです。
これは、在宅高齢者の生活費の上昇に合わせた調整です。
今回は、利用する側にとって関係するポイントを説明しました。
その他にも、2024年の改正では、福祉用具のレンタル・販売対象の見直しや介護職員の処遇改善なども含まれています。
介護保険の保険料納付について
65歳以上(第1号被保険者)の保険料と計算方法
第1号被保険者とは、前述した通り介護保険の65歳以上の方です。保険料は、政令で定める基準に従い、各市町村が条例で定める保険料率に基づいて算定されます。なので、個人によって納める金額が違います。計算式は、介護保険料(年額)=基準額×保険料率 です。基準額は、各自治体によって異なり、その自治体に住む65歳以上の人の人数で割り算して決定されています。保険料率は、前年の所得や住民税の課税状況に応じて段階的に設定されています。保険料率も、自治体によって異なります。基準額や保険料率は、各自治体の保険料段階表で確認することができます。
例えば、東京都江東区に在住のAさんは、前年の合計所得が150万円だった場合、江東区の2024年度の基準額は74,400円、保険料率は第6段階の1.15です。Aさんの年間の保険料は、74,400円×1.15=85,560円と算定できます。ご自身の住んでいる自治体の基準額や保険料率を確認してみてください。
第1号被保険者の納付方法は、普通徴収と特別徴収の2通りあります。年金受給額が年間18万円未満の場合は市町村から届く納入通知書で個別に納めます。これを普通徴収といいます。年金受給額が年間18万円以上の場合は、特別徴収といって、保険者である市町村が年金から天引きします。
40歳から64歳(第2号被保険者)の保険料改定(2020年以降)
40歳以上65歳未満の第2号被保険者は、どのように納付するのでしょうか。第2号被保険者は、各医療保険者が医療保険に上乗せして徴収します。今回は、国民健康保険以外の医療保険に加入している第2号被保険者の給与の介護保険料について説明していきます。この場合、事業主が保険料の半分を負担します。計算式は、介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率 です。標準報酬月額とは、4月~6月の給与の平均額を「標準報酬月額表」と照らし合わせて設定されます。
例えば、協会けんぽに加入している45歳の東京都在住のBさんは、標準報酬月額が50万円です。その場合、保険料額表では30等級となり、介護保険料率は1.60%です。計算式にあてはめると500,000円×1.60%=8,000円となり、事業主が半分負担するので、被保険者は毎月4,000円の介護保険料を納付することになります。
以前まで、第2号被保険者の介護保険料は、医療保険の加入者数に応じて負担する金額が決められる仕組みでした。つまり、同じ医療保険に加入している人は、同じ保険料を納めていました。しかし、その仕組みでは保険料の負担率のばらつきが高くなり、「総報酬割」という仕組みが導入されました。この仕組みは、介護納付金を人数で割るのではなく、報酬額に比例して負担するものです。これにより報酬額の高い人は介護保険料が高くなり、報酬の低い人は低くなります。
第2号被保険者の2024年度の平均保険料は月額6,276円で、昨年より60円高くなっています。この金額は、介護保険開始の2000年と比較して、2倍以上です。これには、要介護者・要支援者の増加が大きく関係しています。2021年度の要介護・要支援者の認定者数は約690万人で、2000年度から約2.7倍に増加しています。要支援・要介護者の増加、少子高齢化に伴い今後も保険料が高くなることが予想されます。
保険料の支払い方法と取扱いについて
もしも介護保険料を滞納してしまうと、以下のような措置がとられます。
- 延滞金が発生する。
- 給付制限が掛けられる。
- 財産の差し押さえ。
ここでは、②給付制限について説明していきます。第1号被保険者で介護保険を滞納している要介護者(介護保険を利用し、介護サービスを受けている人)には、段階的に滞納措置がとられます。滞納期間が、1年から1年6か月の場合、通常利用した介護サービスの1~3割を負担するところ、一度全額支払う必要があります。そして、滞納分を納付することで支払った料金の9割が返還されます。返還の申請をする際には、領収書が必要です。滞納期間が、1年6か月から2年の場合、介護給付が一時差し止めとなります。介護保険サービス費用を全額支払うことになり、差し止められた給付金は、介護保険料として滞納している分に充てられます。つまり、全額支払ったサービス費用の9割が返ってくることはありません。滞納期間が、2年以上になると、時効により滞納していた分の保険料を納められなくなります。また、介護保険サービス費用の自己負担割合が1割から3割に上がります。
保険料が上がり続けることに加え、社会情勢の影響で保険料を滞納する人が増えています。その理由には、金銭的な理由、未納に気づかないケース、病気や災害などさまざまなものがあります。納付期限の猶予や申請によって減免が受けられる場合があるので、納付が難しい時には、早めに市町村の介護保険窓口に相談しましょう。
介護保険の申請からサービス利用までの流れ
介護が必要になった時、どこに、誰に、相談すればいいのでしょうか。介護保険の存在は知っていても、具体的にどうすればいいのか分からない方も多いでしょう。大まかな流れは以下の通りです。
- 要介護認定の申請
- 認定調査と主治医の意見書
- 審査判定
- 認定
- 介護サービス計画書の作成
- 介護サービス利用の開始
それぞれを、詳しく説明していきます。
相談から調査までの流れとスムーズに進めるコツ
介護給付を受けるためには、被保険者は要介護認定を受けなければなりません。まず、被保険者が住所を有する市町村の窓口に行って要介護認定を受ける申請をします。申請の際に必要なものは、
- 要支援・要介護認定申請書
- 介護保険被保険者証(第1号被保険者)
- 健康保険被保険者証(第2号被保険者)
- マイナンバーが確認できるもの
- 身分証明書
- 主治医がいる場合は、診察券など
です。必要書類を持って、市町村の窓口に申請に行きます。仮に入院中などで本人が申請できない場合は、家族や親族が代理で申請できます。
認定調査の実施内容と基準を理解する
申請をした後は、自治体の調査員が自宅や入院先の病院などを訪問して、介護認定調査を実施します。認定調査というのは、生活状況や心身の状況、特別な医療の必要性などを確認します。調査には、全国一律の調査票が使用され、概況調査、基本調査、特記事項の3つの項目に分かれています。
まず概況調査では、対象者の現在使用しているサービスの状況や環境などを聴き取ります。家族状況や住居環境、日常的に使用する機器・機械の有無などについて調査します。
基本調査は74の個別調査項目で構成されています。内容は、歩行能力や外出頻度、短期記憶がどの程度かなど様々です。加えて、生活する上で他者からどのような介助をされているかなどを実際にやってもらったり、聴き取ったりします。
前述した通り、認定調査では本人の能力とどの程度の介助が必要か、認知症がある場合には、それにより介助の手間が生じているかなどを調査します。認定調査には、本人だけではなく、家族や普段介助をしている人も同席することで調査員に正確な情報を伝えることができ、適切な認定を受けることができます。
主治医意見書の重要性と作成のポイント
認定調査と同時に、介護認定には主治医意見書が必要です。これは、身体や精神の障害の原因となる病気やケガについて医学的な意見が記入されます。要介護認定の審査の際に、公正な判断・審査の基礎的な資料となる為、とても重要です。すでに主治医がいる場合には、市町村の窓口で用紙をもらい、直接医師に依頼することができます。その際の注意点として、いきなり用紙を持って直接依頼するのではなく、事前に意見書を作成してほしいと伝えてから進めましょう。主治医意見書を作成するには、状況を把握するために、ある程度の時間を必要とするからです。主治医がいない場合には、市町村が指定する医師に作成を依頼することも可能です。市町村の窓口に相談し、指定された病院を受診することで、作成することができます。この主治医意見書を作成する時には、対象者には作成費用は発生しません。
指定事業所でのケアプラン作成と選び方
認定調査が終了し、要介護・要支援認定をされたら介護サービスを利用するためにケアプランが必要です。ケアプラン作成には、市町村の指定した居宅介護支援事業所にいるケアマネジャーに依頼しなければなりません。
居宅介護支援事業所は、地域包括支援センターや自治体の窓口でリストをもらうことができます。ここでは、居宅介護支援事業所の選び方を説明します。
まずは、自宅から近いことをおすすめします。緊急時や何か困ったことがあった際に、迅速に対応してもらう事ができます。近隣の地域の介護・福祉情報にも詳しい事も理由の1つです。
次に特定事業所加算を受けている事です。特定事業所加算とは、質の高いケアマネジメントを実施している事業所に対して、市町村から支払われる介護報酬が増額されることです。厳しい条件を満たしているため、より質の高い支援を受けられる可能性があります。
入院している、主治医がいる場合、病院に併設されている居宅介護支援事業所を選ぶことも1つです。医療面の情報が、介護に反映されやすく、健康状態や持病を理解した上で対応してくれる場合もあります。
特に重要視するのが、ケアマネジャーとの相性です。家族の状況や金銭面も相談する相手となるので、信頼関係が築ける相手かどうかを判断するのはとても重要です。いくつかの事業所に連絡してみて、印象の良いところ、話しやすいと感じたケアマネジャーを選びましょう。もし合わないなと感じたら、居宅介護支援事業所や担当ケアマネジャーは、変更することが可能です。
サービス利用開始までに必要な手続き
担当のケアマネジャーが決まったら、どの介護サービスを利用するか相談していきます。同じ種類のサービスでも、事業所によってサービス内容や費用が異なります。事前に確認し、複数の事業所を比較して検討していきましょう。介護サービスを利用する際には、利用者自身が各事業所と契約を結ぶ必要があります。たとえば、デイサービスと訪問介護を異なる事業所からサービスを受ける場合、それぞれの事業所と契約します。契約後、サービスを受けることができます。
介護保険のメリットと利用の注意点
介護予防と支援事業でできること
介護予防支援事業は、要介護認定で要支援1または2と認定された利用者へ、要介護状態になることをできるだけ遅らせることなどを目的に、サービスを提供しています。介護予防給付の中で、介護予防を目的としたデイサービスや福祉用具をレンタルすることができます。
介護保険の負担割合と費用上限の基準
介護保険の負担割合は、基本的に1割です。この割合は合計所得金額によって決定します。現役並みの所得がある人の自己負担割合は、2~3割です。
居宅サービスの支給については、要介護・要支援度によって支給限度額が設定されています。例えば、要介護度3の利用者の場合、1ヶ月あたりの利用限度額は270,480円です。デイサービスや訪問介護を利用限度額いっぱいまで利用した時の自己負担額は1割の27,048円です。この利用限度額を超えてサービスを利用した分は、介護保険が適用されず、全額利用者が負担することになります。
介護保険の選び方と賢い利用法
高額介護サービス費支給制度の申請方法と活用例
前述した通り、介護サービスを受ける場合、所得に応じて1~3割の自己負担が発生します。しかし、この自己負担額には、1ヶ月あたりの上限額が決められています。もしも、1ヶ月に支払った自己負担額の合計が上限を超えた場合、超えた分について払い戻しを受けることができます。
申請方法は、サービス利用料の自己負担額が上限額を上回った場合、自治体から自動的に申請書が送付されます。申請書に、必要事項を記入して役所に郵送、または持参すると、指定した口座に超過分の利用料が振り込まれます。一度申請してしまえば、その後の超過した月分は、申請しなくても自動的に振り込まれる仕組みです。
例えば、介護保険サービスを利用し、課税所得370万円の家族がいる世帯に暮らす要介護度2のAさんは、今月の居宅サービス利用料の自己負担分が85,000円でした。課税所得380万円未満の場合、利用者負担限度額は44,400円です。自己負担分が限度額を超えているため、85,000円-44,400円=40,600円の払い戻しを受けることができます。
このように、負担上限額は、所得によって異なります。申請を一度してしまえば、利用できる制度ですが、この制度の存在を知っているかどうかで、どこまでサービスを利用できるかどうかも変わってくるので、確認しておきましょう。
自己負担を軽減する制度の具体的な活用方法
上記の高額介護サービス費は、介護にかかる自己負担額のみに該当しますが、高齢になると、介護だけではなく医療にかかる費用も増加する傾向にあります。そこで、自己負担額を軽減させるために活用できる制度が、高額医療・高額介護合算療養費という制度です。これは、世帯の1年間の介護保険と医療保険の合計自己負担額が、一定額を超えた場合に、世帯単位で超えた額を各保険者が支給する制度です。自己負担の上限額は、所得によって変わってきますが、すべての要介護者が対象になります。
知っておくべきリスクとトラブル回避策
利用上限金額を超えないための工夫
高額介護サービス費など制度があるとはいえ、利用上限を超えないための対策も必要です。サービス利用料が増えているという事は、必要な介護が増えているということでもあります。その場合は、介護度の区分変更を申請する方法があります。例えば、要介護1の時は、車椅子のレンタルができなかったが、要介護3に変更したらレンタルできるようになったなど、要介護度が上がると支給される基準額が上がるので、利用できるサービスの選択肢を増やす事が可能です。利用上限を超える事が多い場合には、介護状況と合わせて担当ケアマネジャーに相談してみましょう。
認定調査結果に不満がある場合の対応策
認定調査には、調査員と対象者側の間で認識のずれが生じることも少なからずあります。対象者には、認知症のある方やご家族が遠方に住んでおり状況を把握しきれていないなど様々なケースがあり得ます。受け答えやコミュニケーションの行き違いによって認識にずれが生じ、適切な介護認定に至らないと言った結果になってしまいます。まずは、認定調査前に情報・状況の整理が大切です。
整理した情報・状況を伝えたにも関わらず反映されていない、想定した認定結果と違うと感じた場合には、不服申し立て、いわゆる再審査請求をすることができます。しかし、決定までに数か月かかる場合もある為、一般的には、区分変更申請という方法が有効です。
区分変更を申請する場合には、市町村の窓口で申請を行います。すでに担当のケアマネジャーがいる場合には、ケアマネジャーを通して手続きをしてもらうことも可能です。
まとめ
介護保険制度について、説明してきました。色々な制度を知っているといないで、受けられるサービスや選択肢が変わってくるので、介護が必要になったときに活用できるよう頭に入れておくといいですね。
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