介護保険制度を申請する前に知っておくべきこと!

介護保険制度について調べている

介護保険制度は、措置からサービスへと変わってきています。
同時に、保険料や負担割合も社会情勢とともに変化しています。

この記事では、介護保険法の成り立ちや利用者の負担の変化、その負担を軽減させる方法について説明していきます。

この記事の内容をまとめると

  • 介護保険制度の成り立ち
  • 介護保険を利用するには?
  • 介護サービス利用の負担軽減策
  • 保険外サービス利用の重要性
目次

介護保険制度とは

介護保険制度の目的と背景

2000年に施行された介護保険法は、介護が必要な高齢者を社会全体で支え合うことを目的に制定されました。
この介護保険法は、保険料を財源とする社会保険方式をとっています。また、介護が必要な状態になっても、尊厳を保持し、持っている能力に応じて自立した生活を営むことができるよう支援することを目的としています。

介護保険制度の成り立ちには、高齢化や家族の在り方の変化が大きく関係しています。
戦後の日本は、高度経済成長期を経て生活基盤の安定、公衆衛生・保健医療の水準が向上したことで、日本人の平均寿命は延びていきました。このことにより、介護期間の長期化や要介護高齢者の増加につながっていきます。

日本の高齢化率が7%から14%を超えるのにかかった期間は、24年です。他国の高齢化率が7%から14%になるのにかかった期間は、フランスが115年、ドイツが40年だったため、日本の24年というスピードは驚異的でした。

かつて介護は家族がするものでしたが、産業構造の変化により若い年齢層が地方から都市に集中し、核家族化が進んだことで家族だけに介護の負担を強いることは、難しくなっていきました。
親の介護のために離職する人も年々増え続け、毎年約10万人とも言われています。

介護離職が増えれば、労働力不足を一層深刻化させ、経済の減速にもつながります。
高齢者介護は、家族の問題ではなく、社会全体の問題へと発展していったのです。
高齢化・要介護者の増加・核家族化などにより、介護は家族で支えるのではなく、社会全体で支える仕組みを必要としました。

介護保険の対象者と受給要件

介護保険の被保険者は、第1号と第2号に分けられます。

第1号被保険者とは、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の方です。
その中で、寝たきりや認知症などで介護や支援が必要な状態の方が、介護給付を受けることができます。

第2号被保険者とは、市町村の区域内に住所を有する40歳から64歳までの医療保険加入者が対象です。
それに加えて、末期がんや関節リウマチなど16種類の特定疾病によって要介護・要支援状態になっていることが受給条件です。

第1号被保険者、第2号被保険者とも介護サービスを利用するためには、要介護認定を受けなければなりません。
要介護認定は、介護が必要な状態かどうかを客観的に判断し、さらに介護の度合いを1~5段階の数値で表すために行われます。
要介護度の他に、要支援度1、2もあり、全部で7段階に分けられます。

では、どのくらいの状態で要介護度がいくつと判断されるのでしょうか。
要介護度は、認知症の症状、持病による影響、身体機能の低下レベルなどを総合的に判断されます。
明確な基準はないので、以下で説明する判断基準と具体例はあくまで目安として考えてください。

  • 要介護1
    基本的に一人で生活できるが、要介護状態にならないように、生活の限られた一部に見守りや支援が必要な状態。
    例えば、立ち上がりや片足立ちなどの動作に何らかの支えが必要な場合がある。
  • 要介護2
    基本的な日常動作に介護が必要な状態。食事や排泄に介護が必要、認知症により清潔が保てない。
  • 要介護3
    日常生活動作の多くに介護が必要な状態。例えば、認知症により徘徊など問題行動がある。
  • 要介護4
    介護なしに日常生活を営むことが困難な状態。介護がなければ、食事や排泄などもできない。
  • 要介護5
    介護なしには日常生活を送れない状態。寝たきりの状態で、意思疎通が困難。

要介護認定の基準は全国一律で決まっています。
生活に関わる8つの行為に対して、どれくらいの時間をかけて介護をしているかを判断材料としています。加えて、認知症の症状がある場合には、状態に応じて認知症加算を合計します。

このように、要介護・支援認定は、対象者の状態を総合的にみて算出されています。

「措置」からサービスへの変遷と市区町村の役割

介護保険制度が導入される前は、措置制度というものが一般的でした。
措置制度というのは、福祉を必要としている人に、行政が指定したサービスを提供することです。
その時、利用者側に選択権はありませんでした。しかし、現在の介護保険制度では、利用者が自由にサービスを選択することができる契約制度が当たり前です。
なぜ、措置制度から契約制度に移行したのでしょうか。その理由を説明していきます。

措置制度から契約制度に変わった理由は、4つあります。

  • 財源の確保が困難になった。
    措置制度では、サービスの利用をすべて税金で賄っていました。
    しかし、高齢化や平均寿命の延長により、現在は40歳以上が支払う保険料で財源を確保しています。
  • 利用者の権利保障問題
    措置制度では、行政を介してサービスを受けるため、行政が必要だと認めなければ、サービスを利用することはできませんでした。また、サービス内容も行政が決定するため、利用者側に選択権はありませんでした。
    現在では、サービス利用の際には、行政を介していないため、利用者側が自由にサービスを選択することができます。
  • 中高所得者の負担が大きい
    措置制度は、低所得者を対象にしていた為、所得に応じてサービス費用を負担するシステムでした。
    これでは、中高所得者が介護サービスを受けるのは負担が大きく、利用することに抵抗を感じている人もいました。現在は、保険料が財源のため、利用したサービス費用の一定率を負担する形に変更されています。
  • 介護サービスの質が上がらない
    行政が利用者を振り分けていた為、サービス提供者同士が競争することなく、利用者を獲得できる仕組みでした。そのため、介護の質が低下していくことが問題視されていました。

このような理由から、介護サービスは措置制度から契約制度へと変わっていったのです。

行政を介さなくなった介護保険制度では、保険者である市区町村が大きな役割を持っています。
介護保険の実質的な運営を担っているのが、市区町村です。

主な役割は、被保険者の資格管理・保険料の徴収・保険給付に関すること・要介護認定に関する業務などです。
介護保険について、困ったことがあったらまずは、市区町村の窓口に相談してみましょう。

介護保険制度の仕組み

介護保険料の仕組みと負担割合の違い

第1号被保険者と第2号被保険者では、介護保険料の算定方法が違います。

65歳以上の第1号被保険者の介護保険料は、介護保険料(月額)=基準額×保険料率で計算されます。
基準額は、各自治体によって異なり、その自治体に住んでいる65歳以上の人の人数で割り算して設定され、3年に1度改定されます。

例えば、東京都港区に住んでいる70歳のAさんは、本人の合計所得金額が130万円です。
東京都港区の基準額は、月額6,400円で、所得段階は第7段階なので保険料率は1.10です。
Aさんの保険料を計算すると、6,400円×1.10=7,040円です。
Aさんは、毎月7,040円を介護保険料として納めることになります。

40歳から64歳までの第2号被保険者の介護保険料は、医療保険に上乗せして徴収されます。ですので、第2号被保険者は、公的医療保険に加入していることが介護保険の加入条件です。
月々の給与と賞与で、それぞれ計算が違い、保険料が変わるので、注意が必要です。

第2号被保険者の介護保険料は、給与の介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率、賞与の介護保険料=標準賞与額×介護保険料率で算定できます。
ここでは、給与の介護保険料の計算方法について説明します。
まず、標準報酬月額とは、その年の4月から6月の3か月間の給与の平均額をいいます。健康保険では、標準報酬月が50の等級に分けられます。

例えば、協会けんぽに加入している大阪府の会社員のBさん(41歳)の保険料を計算してみましょう。
Bさんの標準報酬月額は、36万円です。協会けんぽの保険料額表では、25等級に区分されます。計算式に当てはめると、360,000円(標準報酬月額)×1.60(保険料率)=5,760円です。
Bさんの保険料は、月額5,760円と計算することができます。

この保険料は、健康保険に加入している会社員の場合、会社と会社員が折半して負担します。
ですので、Bさんの個人負担額は、5,760円÷2=2,880円です。
会社員ではなく、個人事業主などの国民健康保険に加入している場合、介護保険料は全額自己負担となります。

負担割合

収入に応じて、保険料が変わるように第1号被保険者の介護サービス利用時の負担割合も収入によって変化します。
基本的には、全体の9割が介護保険から支給され、残りの1割を利用者が負担します。
ただし、年金収入や合計所得金額が一定以上の場合、2割または3割負担になります。
第2号被保険者は、所得に関わらず、1割負担です。

保険料にかかわる市町村の役割

前述した通り、被保険者の保険料負担額は、収入が多いほど多くなっていく仕組みです。
第2号被保険者は、加入している健康保険によって異なりますが、第1号被保険者の保険料は、市町村が調整しています。
これは、地域によって高齢者人口や必要とされるサービスに違いがある為、それぞれの自治体が必要とされる介護サービスを提供できるようにこのような仕組みになっています。

市町村は、利用者の最も身近な行政として、地域の実情を踏まえた介護保険事業計画を策定し、サービスの見込み量を推計した上で、保険料を設定する役割を担っています。

要介護認定の申請とサービス利用までの手順

要介護・要支援認定の申請方法

介護が必要だと判断されても、すぐに介護給付を受けられるわけではありません。まずは、介護保険の申請をして、要介護・要支援認定を受ける必要があります。要介護認定の申請は、市町村の窓口でできます。
持ち物は、下記です。

  • 要介護・要支援認定申請書
  • 介護保険被保険者証(第1号被保険者)
  • 健康保険被保険者証(第2号被保険者)
  • マイナンバーが確認できるもの
  • 身分証明書(申請者のもの)
  • 診察券など主治医の情報が確認できるもの

本人が入院中など自分で申請ができない場合には、家族や親族が代わりに申請することもできます。

認定調査の流れと介護事業計画

申請後、市町村の調査員が自宅や病院を訪問し、認定調査を行います。
この調査は、全国一律の認定調査票が使用され、概況調査、基本調査、特記事項の3つに分かれています。

概況調査とは、利用中のサービスの内容や状況、家族の状況や自宅などの本人が置かれている環境について調査します。

基本調査とは、7つの基本調査項目で構成されています。
例えば、爪切りができるかや、外出頻度など74の項目があります。
この調査項目には、主な判定基準が3つあります。
①本人の能力、②介助の方法、③精神・行動障害の有無です。

③の精神・行動障害の有無に関しては、認知症などにより、不潔行為や徘徊などの行動がどの程度発生しているのかを聞き取ります。その行動により、介護の手間が生じているかどうかが判定基準になります。

認定調査は、調査当日の受け答え次第で判定結果が変わってしまいます。
適正な結果を得るためにも、現状を整理し正しく伝えられるように準備することが望ましいです。また、家族や普段介助をしている人が立ち会い、客観的な意見も伝えられるようにしましょう。

地方自治体は、介護保険給付を円滑に進めるための計画を策定しなければなりません。これを介護保険事業計画と言います。
これは、地域の現状、どんな介護サービスがどれだけ必要か、介護サービスを充実させるための取り組みを決めた上で、3年に1回予算や介護保険料を決定しています。

この介護保険事業計画は、市町村と都道府県がそれぞれ策定しています。
その地域の要介護者数の見通し、それに合わせて具体的な介護サービスの利用者数の見込みなども策定されています。
認定調査は、必要な介護サービスを決定するためのものであると同時に、自治体が必要とされているサービスを知ることのできる機会にもなります。

各自治体が、ホームページなどで介護保険事業計画を公開しているので、自分の地域の介護事情について確認してみてください。

ケアプラン作成と介護サービスの開始

要介護認定が終了し、要介護度が決まったら、いよいよサービス利用開始です。
介護給付を受ける介護保険サービスは、ケアプランをもとに提供されます。このケアプランというのは、利用者が望む暮らしを実現するために、どんなことに課題があるのかを整理し、目標や援助内容・利用するサービスを提供する事業所などをまとめたものです。

ケアプランは、自分や家族が作成することもできますが、基本的には、ケアマネジャーに依頼することが一般的です。
市役所や地域包括支援センターの窓口で、居宅介護支援事業所を紹介してもらいます。
居宅介護支援事業所でケアマネジャーに必要なケアプランを作成してもらうとともに、介護サービスを提供するための連絡や調整をしてもらいます。
必要なサービスが決定したら、利用する事業所を選び、契約を行います。

各事業所とのやり取りは、ケアマネジャーが連絡・調整してくれますが、契約を結ぶのは利用者自身です。
デイサービスや訪問介護など利用する事業所と契約してはじめて、介護サービスを利用することができます。

介護保険制度のメリットと課題

公的介護保険で受けられる支援と負担軽減策

介護保険が適用されるサービスは、大きく分けて以下の7つです。

  1. 居宅サービス
  2. 地域密着サービス
  3. 居宅介護支援
  4. 介護保険施設
  5. 介護予防サービス
  6. 地域密着型介護予防サービス
  7. 介護予防支援

訪問介護などの自宅で行われる訪問型のサービスやデイサービスなどの自宅から通って利用するサービス、入所して利用するサービスなど種類は様々です。
その他にも、病院への送迎時に利用できる介護タクシーの利用も介護保険サービスに含まれます。
条件を満たせば、車椅子などの福祉用具の購入費やレンタル費、住宅改修費なども介護保険給付の対象になります。

介護保険制度の限界と保険外サービスの活用方法

介護保険制度は、高齢者の介護や家族の支援を前提としているため、緊急時や手続きの理解に支障が出る可能性があります。また、介護人材の不足により夜間帯のケアが介護保険を利用するだけでは不十分になってしまう場合も考えられます。

そのような時は、地域のボランティアやネットワークの活用が有効です。
家族の代わりとなる支援者を見つけたり、手続きの際には地域包括支援センターから支援を受けたりすることができます。

介護保険サービスの利用では、対応しきれない部分を社会全体で支える仕組みですが、高齢者を取り巻く環境によっては、限界もあります。
例えば、独居高齢者の場合、そのような状況も十分に考えられます。
その時には、地域のボランティアや自治体の独自サービスなどを活用して支援を受けることができます。

収支を見据えた介護保険の利用計画

ケアプラン作成時の所得に基づくポイント

介護保険サービスを利用すると、自己負担分が発生します。
所得によって負担割合は変わりますが、基本的には自己負担割合は1割です。

例えば、サービス利用料が10,000円の場合、10,000円×10%=1,000円が自己負担額です。しかし、所得額や特定の条件を満たせば、自己負担を軽減することができます。

まずは、自分の介護度の区分支給限度額を把握しておきましょう。
区分支給限度額というのは、介護保険から支給されるお金の限度額の事です。介護度が高ければ、高いほど高額に設定されています。
この区分支給限度額の範囲内であれば、介護保険サービスの自己負担額も1割の負担割合で抑えられます。ケアプランの内容は、区分支給限度額内になっているか、担当のケアマネジャーに相談してみましょう。

さらに、介護保険適用のサービスを利用しているか確認することも、負担額を抑える有効な方法です。
介護保険サービスと思っていたけれど、そうではなかったという事も少なくありません。

例えば、送迎サービスや配食サービスなど、全額自己負担となるので利用頻度によっては、費用が高額になる可能性もあります。
保険外サービスは、本当に必要か、代替できる方法はないかなど確認してみてください。

自己負担を抑えるための保険外サービスの選び方

要介護認定をして、介護保険を使用しているからといってそれ以外のサービスを利用してはいけない、ケアプランに載せてはいけないということはありません。
保険外サービスを利用したほうが、自己負担を抑えることができる場合もあります。また、保険外サービスは、より個別化されたサービスを提供できるメリットがあるので、利用者にあったサービスを自由に選ぶこともできます。

家事代行サービスの例を説明します。
介護保険サービスでは日常生活の援助を目的としているため、サービス提供をしに来たヘルパーに庭の草むしりを依頼することはできません。
家の中の事は出来るけど、庭の手入れまでは難しいという利用者の場合には、家事代行サービスの利用も有効です。

利用頻度やサービス内容、時間によって異なりますが、1時間あたり3,000円から5,000円ほどで利用することができますので、利用者の状況にあったサービスを選択することが大切です。

介護保険制度を利用する際の注意点

要介護認定の申請で注意すべきポイント

要介護度によって保険給付の支給額が変わってくるため、要介護認定は介護サービスを利用していく上で、重要なステップです。
では、どうすれば利用者にとって適切な介護認定になるでしょうか。ここでは、認定調査時のポイントについて説明します。

  • 要介護認定を受ける時には、家族や利用者と関わりのある人も立ち会う
  • 普段の介護内容についてメモをとっておく
  • 普段のありのままを動画に残しておく
  • 要介護者の前で言いにくい事も、メモを取っておく

などがポイントとして挙げられます。要介護認定では、「介護の手間」がどれくらいかかるかを基準として決定されます。
調査員の前で混乱しないため、適切な介護度を判定してもらうためにも事前に準備しておきましょう。

高額介護サービス費支給の条件と認定基準

自己負担額を抑える工夫をしても、状況によっては負担が高額になることも考えられます。そのような時に、活用できるのが高額介護サービス費制度です。
利用者の負担額は、1ヶ月に支払った自己負担額の上限額が所得によって決められています。

例えば、課税所得380万円未満の上限額は、世帯で24,600円です。
この金額を超えると、超えた分の金額が利用者に戻ってくる。これが、高額介護サービス費制度です。
制度を受けるには、市町村に申請が必要ですが、一度申請を行えば、その後の該当する月は、申請がなくても指定した口座に自動的に振り込まれます。

まとめ

介護保険制度の利用方法や負担額を抑える方法を説明してきました。
軽減する方法や高額になってしまった場合の対処法を知っているだけで、落ち着いた行動がとれます。

介護保険法や制度について、触れる機会を作っておくといいですね。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次