認知症保険をご存じでしょうか。
保険会社の提供する保険商品ですが、高齢化により、ここ数年での知名度が大きく伸びた保険の1つです。
この記事では、認知症保険とは何か、メリット・デメリットや選ぶ際のポイントを説明していきます。
この記事の内容をまとめると
- 認知症保険とは
- 認知症保険と公的保険の違い
- 選ぶ時のポイント
- 認知症保険のメリット・デメリット
認知症保険とは?
認知症保険の基本
認知症保険とは、認知症と診断された場合や認知症による要介護状態になったときに給付金を受け取れる民間の介護保険の1つです。
2016年以降、多くの保険会社が認知症保険を売り出し、市場規模は大きくなっています。
介護保険の中でも、最も利用されているのは公的介護保険です。
認知症保険と公的介護保険の違いは、公的介護保険は、介護がどの程度必要なのかによって要介護認定を受け、専門機関で手続き後、サービスを利用します。
認知症保険は、保険会社が定める認知症、または認知症による要介護状態になった場合に、診断一時金を受け取ることができます。
公的介護保険は、サービスを保険給付とする現物給付なのに対して、認知症保険は現金給付です。
診断時に受け取れる保障内容と給付の流れ
認知症保険の特徴として、認知症と診断された時点で一時金が給付されるケースが多いです。
これは、認知症の初期段階で必要な費用に対応するためです。
例えば、家を出て帰り道が分からなくなってしまうなどの認知症症状がある場合には、見守りサービスの導入などが必要になる可能性があります。そのサービス利用時の利用料の支払いに給付金を使う事ができるのです。
認知症と診断後、給付を受け取るには、保険会社によって給付条件が異なります。
認知症と医師から診断されれば保障対象となる場合や、医師による診断に加えて、公的保険において要介護認定がされている状態などさまざまです。
ここで言う認知症ですが、認知症保険の保障対象となるのは器質性認知症であることがほとんどです。
器質性とは、脳神経細胞が異常をきたしている状態のことです。一般的には、画像診断で診断が確定される認知症は、この器質性認知症であることが多いです。また、認知症高齢者の日常生活度を表すものに、厚生労働省による基準が出されています。
自身や家族が認知症かもしれないと思った時には、参考にしてみてください。
認知症保険の給付は、主に2つのタイプに分けられます。
1つめは、一括でまとまった金額を受け取るタイプです。
治療費や入院費、介護をするための初期費用に充てたい場合に一時金を受け取れます。
2つめは、定期的に給付金を受け取って、介護サービスを利用するための費用や生活費などの支払いに充てることができる、年金タイプがあります。
軽度認知障害(MCI)をカバーする保障の支援内容
軽度認知障害をご存じでしょうか?
軽度認知障害とは、認知症の前段階にあたる状態です。
症状としては、記憶力の低下、注意力や集中力の低下、無気力などが挙げられます。
認知症との大きな違いは、早期発見をして、早い段階で適切な治療を受けることで治る可能性があることです。
自分や家族が気になる症状を感じたら、かかりつけ医や物忘れ外来など専門の医療機関を受診しましょう。
上記の軽度認知障害に対応する保険も販売されています。
給付内容の例としては、保険会社の条件を満たす軽度認知障害と診断された場合、認知症診断時に給付される金額の10%が保険金として支払われるものです。
前述した通り、軽度認知障害は早期に発見・治療をすることで、重症化を予防することができるため治療のための費用に役立てることができます。
認知症保険が必要とされる背景と理由
認知症保険は、2016年以降に登場してきた比較的新しい保険です。
テレビのコマーシャルで見たことのある方もいるのではないでしょうか。
認知症保険の市場は急速に拡大し、2016年から2020年の4年間で2.5倍に成長しました。
この認知症保険が誕生・成長した背景には、高齢化が大きく関係しています。
認知症を発症する大きな原因は、加齢と言われています。高齢化の進む日本では、認知症患者数が増加の一途をたどっています。
内閣府の「令和6年版高齢社会白書」によると、2022年時点で認知症・軽度認知障害を患っている人の割合は、高齢者の3~4人に1人とされており、今後も増えていく見込みです。
高齢になるほど、認知症は誰にでも起こりうる身近な病気であるため、認知症保険が必要とされる理由といえます。
認知症保険の選び方と重要なポイント
家族や自分の最適な保険選び
認知症保険といっても、様々な種類のものがあります。
どの認知症保険を選べば良いのか迷った時のポイントを整理していきましょう。
- 加入条件
認知症保険は、要介護状態や認知症と診断される前の、健康状態が良好な人が加入するのが基本です。しかし、一部の商品では、認知症と診断された後でも加入できる引受基準緩和型のものもある為、確認してみましょう。
加入時に気を付けたい点として、不担保期間がどれぐらいなのかです。保険加入後に一定期間の待機・免責期間を設けている商品もあります。待機・免責期間は補償の対象外になるので注意が必要です。
一般的には、待機・免責期間は半年から2年程度に設定されています。 - 保障内容
保険を選ぶ際に、保障内容は特に重要視する点ではないでしょうか。
保障内容は商品によって異なり、認知症診断時の一時金の有無、介護年金の有無、軽度認知障害に対する保障の有無、認知症予防給付金の有無などを給付金額と合わせて確認しましょう。 - 給付条件
給付金を受け取るための条件も、商品によって異なります。
認知症と診断されること以外に、認知症の種類や要介護認定の有無、認知症高齢者の日常生活自立度を図る指標を用いる場合もあります。給付条件が厳しすぎると、認知症になっても給付金を受け取れない可能性もあります。反対に、条件が緩すぎると保険料が高くなってしまいます。 - 受け取り方法
給付金の受け取り方法は、一時金タイプと年金タイプがあります。
一時金タイプはまとまったお金を受け取る方法です。介護が必要になったとき、治療費に充てたり、必要な物を購入したりする資金として使用できます。
年金タイプは、終身で受け取れる為、認知症介護の期間が長くなった時に負担を軽減することができます。 - 付帯サービス
認知症以外の付帯サービスがあるかどうかも選ぶ際の判断材料になります。
入院・手術費用、行方不明になったときの捜索費用、認知症相談ダイヤルなど商品によって様々なサービスがあります。
保険商品によって特徴がある為、保険選びの際は自分や家族のニーズに合致しているかどうか、上記のポイントを確認していきましょう。
保険料と保障内容のバランス
老後の介護費用は、いったいいくらぐらい必要なのでしょうか。
公益財団法人生命保険文化センターが実施した「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」では、介護にかかる総額は平均572万円、介護期間は平均5年1ヶ月という結果が出ています。
日本人の平均寿命は延びていることを考えると、介護期間がさらに延長する可能性も考えられます。
将来の介護費用の負担を軽減させるための認知症保険ですが、保険料はいくら払って、どんな保障内容なのかは加入するかどうかにとても重要です。保障額が少ないと十分な備えにならず、多すぎると不要な保険料負担が生じてしまいます。
必要保障額は、人により変わりますが、計算式は以下の通りです。
『必要保障額=(月々の介護費用-公的介護保険からの給付額-他の収入)×想定介護期間+一時的に必要な費用』です。
しかしこれは、個人の生活レベルや希望、要介護度によっても変わってくるので、あくまで目安です。また、同じ介護度、同じ認知症の種類だとしても症状が同じとは限りません。
徘徊をして頻繁に行方不明になってしまう方と薬を飲み忘れてしまう、何度も飲んでしまう方とでは、見守りが必要なタイミングや時間が異なります。より多くの時間、介護を必要とする場合は、その分多くの介護費用が必要となる可能性が高いです。
では、認知症保険の保険料はいくらくらい支払うのでしょうか。
保険商品や保障内容によって変わりますが、一例として紹介しておきます。
認知症保険加入を検討している男性のAさんの場合、認知症介護一時金を500万円に設定すると契約年齢が40歳で2,175円、50歳で3,355円、60歳で5,600円、70歳で10,105円が月々の保険料です。
このように加入年齢が上がるにつれて、保険料も上昇します。特に、60歳を過ぎてから加入しようとすると保険料が大幅に上がる傾向にあります。
認知症保険の多くは掛け捨てのため、保険期間中に認知症にならなければ、支払った保険料は戻りません。
認知症にならなかった場合のお祝い金がある商品もあるので、保障内容をよく確認しておきましょう。
加入前に確認すべき保障範囲と給付条件
認知症保険に加入しようと思った時に、まず確認したほうがいい内容は保障の範囲と給付条件です。
加入したとしても、必要な時に給付条件に合わず保障が受けられない、またその保障が不十分だと保険に入っても負担が軽減されない事態に陥ってしまいます。
給付条件は保障対象かどうかを左右する重要な要素なので、注意が必要です。給付条件は保険会社や商品によって変わります。
認知症と診断されたとしても必ずしも、保険金が受け取れるわけではありません。
認知症の診断に加えて、要介護認定を受けているか、日常生活自立度判定が決められたレベルに該当しているかなどを給付条件にしている保険商品もあります。
認知症保険加入の具体的な手順
保険加入までの流れと必要な手続き
保険会社や商品を選んだら、加入のための申し込みが必要です。公的介護保険と違い、少ない工程で加入することができます。
申し込みは、対面かインターネットかを選べることが多いです。
対面・インターネット上で保険料の見積もりをして、個人情報の入力後、本人確認書類の提出という流れで手続き完了です。
申し込み時には、健康診断結果やお薬手帳などがあると、健康状態の告知時に便利です。
健康告知や契約時に注意すべきポイント
健康告知とは、保険に加入する際に、現在の健康状態や過去の病歴などを保険会社に申告することです。
この健康告知の内容は、保険会社によってさまざまです。
傾向としては、入院中でない事、認知症や軽度認知障害の疑いで治療を受けたことがない、要介護・要支援認定を受けたことがない、また過去5年以内に、脳神経系の病気を診断・治療を受けていないなどが、認知症保険の告知内容となっていることが多いです。
保険商品の中には、認知症になってしまってからでも入れる保険があります。
健康告知の審査の基準が緩く設定されている場合、引受基準緩和型保険や無選択型保険であれば入りやすいです。ただ、これらの保険は加入しやすいというのがメリットですが、反対にデメリットもあります。
デメリットとして挙げられるのは、通常の保険よりも月々の保険料が高い、契約日から1年間は受け取れる保険金が少ない、保障内容に一定の制限があるなどです。
加入するための審査基準が緩い保険を選ぶ際には、特にメリット・デメリットを認識したうえで判断しましょう。
認知症保険の仕組みと成り立つ条件
保険金や給付金の支給条件と基準
保険金と給付金ですが、それぞれどのように違いがあるのでしょうか。
保険金というのは、基本的に支払いは1回のみで、保険金を受け取ると保険契約は終了します。
死亡保険などがこれに当たります。
給付金とは、入院・手術などの理由で保険会社から都度支払われ、給付金を受け取った後も保険契約は継続します。
上記のことを踏まえて、認知症保険の支給条件を整理していきましょう。
認知症保険は、保険商品にもよりますが、基本的には支給条件として所定の認知症と診断されることを条件としている場合がほとんどです。それに加えて、要介護認定を受けているまたは申請している他、保険会社独自の判断基準があることもあります。
認知症の診断に、脳のCTなど画像診断を行う場合もあります。
認知症が進行してしまうと、落ち着いて検査を受ける事が出来なくなってしまい、画像を撮ることができない事態も考えられます。
そのような事態になる前に、また早期に発見・対応することで症状の進行を遅らせたり、抑えたりすることができるので、本人や家族・周囲の人が、認知機能や生活の中に違和感を感じたら、受診を検討してみてください。
公的介護保険と認知症保険の違い
認知症になり、要介護認定を受けている場合には、公的介護保険の介護サービスを利用することが可能です。
では、公的介護保険を受けられるならば、認知症保険は必要でしょうか。
2つの保険の違いについて、説明していきます。
公的介護保険は、国によって定められている社会保険制度のひとつです。
介護が必要な高齢者の生活を社会全体で支えるという仕組みで、40歳以上のすべての国民が加入する義務があります。
保険給付を受けるためには、要介護・要支援認定を受ける必要があります。
給付内容は、基本的には介護サービスなどの現物給付です。様々な要因で要介護状態になった場合に、保険給付を受け取ることができます。
認知症保険は、名前の通り認知症に特化した任意保険であるため、認知症以外の理由で要介護状態になった場合は給付金を受け取ることができません。
給付金・保険金を受け取るためには、医師から認知症の診断を受けるなどの保険会社によって定められた条件を満たす必要があります。
給付内容は、公的介護保険のように介護サービスではなく、現金給付です。
認知症と診断されたとき、給付金を受け取ることができるので、治療の開始、見守りサービスの導入、自宅のバリアフリー化など早期に対応することが可能です。
保険期間の選び方
認知症保険に加入できる期間は、保険会社や商品によって異なりますが、一般的には70歳までの間で加入できます。
加入する際には、保険期間を選択しますが、これには2種類の保険期間があります。
1つは、一生涯保障が続く終身型です。
終身型には、一定期間または一定年齢まで保険料を支払う「有期払い」と、終身にわたって保険料を支払う「終身払い」に分かれています。
認知症と診断されて以降、一生涯給付金を受け取れるため安心感がある一方、終身払いの場合には保険料そのものが負担になったり、認知症と診断されてからその他の病気により短期間で死亡してしまったりした場合には、払った保険料と給付金が見合わないことがあります。
2つ目は、一定期間のみ保障がある定期型です。
保険期間が10年や20年、または70歳や80歳までなど設定した年齢まで続きます。
その保険期間に、認知症と診断されるなど給付条件に該当すると、保険金・給付金が支払われます。
定期型は、年齢により選択できないこともあります。
認知症保険を契約する際の注意点
契約前に必ず確認したい重要事項
認知症保険に加入する前に、以下の事項を確認しましょう。
- 認知症保険以外の保険に加入していないか
現状の貯蓄額やその他の介護保険、医療保険といった認知症保険以外の保険商品の加入状況、契約内容を整理しておきましょう。認知症保険との保障内容が重複してしまう事があります。
重複が悪い訳ではありませんが、保険料の負担が増えるため費用対効果がどれくらいか慎重に検討する必要があります。 - 給付条件
保険会社や商品によって、給付条件が異なります。
認知症保険の給付条件は、一般的な介護保険と比べて厳しい傾向にあるので、よく確認しておきましょう。 - 掛け捨てタイプの保険である
認知症保険の多くは、解約返還金がない場合が多いです。
保障期間の途中で解約したとしても、契約者に支払われる解約返還金がないか、あっても支払った保険料の総額を大きく下回る可能性が高いです。
不担保期間や免責期間のリスクと対処法
不担保期間とは、保険の責任開始日以降、給付条件に該当しても保険金や給付金が支払われない期間を差し、免責期間とも言われます。
認知症保険の場合、契約後、責任開始日以降180日から1年の不担保期間を設けられている商品が多いです。この期間内に、医師から認知症と診断されても給付金を受け取ることはできません。
すでに加入を検討している場合は、早めに保険会社などに相談してみましょう。
認知症は、いつ、何が原因で発症するか分かりません。
例えば、退職などの生活環境の変化や身近な人の死などがきっかけとなるケースもあります。
ライフスタイルの変化が予測される場合には、その時期に合わせて保障が開始されるよう加入時期を検討するのも1つです。
加入後に家族へ情報共有する理由
認知症保険に加入する、または加入したことは必ず家族に伝えておきましょう。
その理由は、実際に認知症を発症した時に、認知症保険の存在を被保険者自身が忘れてしまい、給付金を請求できなくなってしまう恐れがあるからです。
せっかく保険料を払い続けてきたのに、保険の存在に気づかず給付金を受け取ることができなくなってしまいます。
伝える以外にも、加入手続きを家族と行う、対面の契約の場合は同席してもらう、保険証券などの契約書類は、保管場所を決めて家族と共有するなど事前の対策が必要です。
認知症保険のメリット・デメリット
認知症保険で得られる3つのメリット
認知症保険に加入して得られるメリット3選
- 現金を受け取れる
公的介護保険との大きな違いは、給付内容がサービスではなく現金であることです。認知症介護には、多くの費用が必要です。そんな時に、給付金を受け取れるようにしておくことで、経済的に安心を得ると同時に、家族の経済的負担も軽減できます。 - 給付条件や保障内容が商品によって異なる
給付条件が公的介護保険の要介護認定の基準に沿っているもの、保険会社独自の基準のものなど保険会社によって基準が異なります。保障内容も、保険会社によって異なり、骨折などの保障を特約として付ければ、さまざまなケースに対応することができます。認知症保険は、選択する幅が広いことも特徴です。 - 軽度認知障害にも給付金が支払われる
多くの認知症保険では、軽度認知障害と診断された段階でも、給付金が支払われる商品があります。前述した通り、認知症は早期発見・早期対応が重要です。特に重要な時期に給付を受け取れるため、認知症の進行を遅らせたり、症状を軽減したりすることができます。
認知症保険に潜むデメリット
多くのメリットがある認知症保険ですが、デメリットもあります。
まず1つには、保険料が高額になりやすいことです。
特に、加入年齢が高くなるにつれて、保険料も上昇します。
2つめは、給付条件が一般的な介護保険と比べて厳しいことです。
例えば、認知症の診断に加えて、要介護状態が一定期間継続することを給付条件としている場合、診断後すぐに給付金を受け取ることができません。
介護費用に備えるための保険活用術
公的介護保険や貯金だけでは、将来の介護費用が不安な方には、保険会社の提供する介護保険を検討してみるのもおすすめです。
保険会社の商品である介護保険は、現金給付であるため用途に縛られず、おむつ代や公的介護保険で対象外の費用に充てることもできます。家族が介護者である場合、介護をするために働けなくなった、給料が減った際の生活費を補填することも可能です。
民間の介護保険には、認知症や軽度認知障害と診断された場合に、一時金が受け取れるオプションを付けることができるものもあります。
まとめ
認知症保険の基本や選び方について説明してきました。
老後の不安は、多くの人が抱えています。公的介護保険とあわせて活用することで、安心できる老後を過ごせるように備えましょう。
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